競争原理の誤用法 後編



「ええ、それでは今回の挑戦者たちを紹介します!
 まずはサウスウィンドウ代表!我がシリウス軍最強人物、彼にだけは逆らってはいけない!正軍師、シュウ!本日は助手にラダト在住、主婦の鑑、ヨシノさんを伴っています!これは正統派の味が期待できるか!!

 次はミューズ代表!口と同じだけ料理の腕も達者なのか?!諜報をさせたら並ぶ者はなしのフィッチャー!本日の助手は何故か名医ホウアン先生です! どんな味が飛び出すのか!

 そして、トゥーリバー代表!常に前線で戦う姿は、まさに闘犬!リドリー将軍です!助手は同じくコボルトのゲンゲン! 摩訶不思議なコボルトテイストが爆発の予感です!

 唯一の女性代表はグリンヒル!学園都市だけに家庭科の授業の質が問われます、テレーズ市長!助手はグリンヒル生徒の追っかけ少女、ニナ! 恋する乙女の料理の腕は侮れません!

 都市同盟最後の代表はマチルダ騎士団!どちらかがかけても居心地の悪い、赤騎士カミューと青騎士マイクロトフ! 愛剣を包丁に持ちかえて、どこまで健闘してくれるのでしょうか?!

 最後は本日のスペシャルゲスト、トラン代表!そのフェミニストぶりは家事にまで及んでいるのか、大統領子息シーナ! 助手は何故か『少年』忍者のサスケです!どのような異国の味を披露してくれるのか!

以上、六チームによって争われます今回の料理対決!
この晴れすぎた真夏日にふさわしいお題は」


 ここで司会者は言葉を区切った。どこかから流れてくる効果音。
 からからからとワゴンをナナミが押してくる。二人で目線を合わせ、せぇのの合図で上にかぶせてあった布を取り除く。
 真夏の陽光に晒され、きらきらと現れたそれに客席からは歓声が上がる。
 客席にも優勝した作品が配られることになっているのだ。


「『かき氷』です!!!」


 かき氷。  それはシンプルかつ奥の深い真夏の氷菓である。デコレーションしようと思えば限りなく可能なものの、本来の食感を楽しむことができなくなってしまう。
「それでは、魔法兵団長がわざわざハイランドとハルモニアの国境付近から持ってきた、この極上新雪を最大限に生かす『かき氷』を頑張って作り上げてください!料理、スタート!!」




「はい!時間です!」


 フータンチェンが持っていた時計で時間を計り、右手を挙げた。
 いつもの料理対決は四人の審査員の前に料理が並べられるが、今回はひとつのテーブルに各都市代表の料理が並べられる。
 見た目はどれもまともそうである。夏祭りで売っているようなカラフルなかき氷だ。
 審査員は勿論と言うべきか、軍主姉弟である。
 すでに右手にはマイスプーンを準備完了。あとは解説と試食を待つだけだ。


「それでは最初はサウスウィンドゥ作のかき氷です!うーん、この色は水ですね。やはり正統派!おや、この脇のトッピングはなんでしょう?」
 薄っぺらい、キツネ色をした、小枝のようなもの。
 正体が分からずに代表のシュウに尋ねる。
「骨だ」
 シュウ、一刀両断。
 あまりの解答に会場が固まる。
 それを絶妙なタイミングでヨシノが救う。
「魚の小骨を油で揚げたものでございます。サウスウィンドゥ市は半分がデュナン湖に面していますから、それを表したいと思いまして」
「な、なるほど!それでは、軍主による試食です!」


「はい、次はミューズ作のかき氷です!うーん、なんだか不思議な色をしていますね。黄色?でしょうか。これはいったいなんですか?」
 レモンよりは茶色がかっていて、濁っている。見たこともない色だ。
 本当に食べても大丈夫なのであろうか。なにか入っている。なにかが。
「はい、それはホウアン先生が考案した健康かき氷です」
 フィッチャーが言う。
「ええと、リク殿も毎日のお仕事でお疲れかと存じまして。 そこで、ミューズの誇るホウアン先生に頼みまして、数種類の香草と薬草と、それから甘みを出すために蜂蜜を加えたものを。疲労回復に効くんですよ」
 どうやら、おかしなものは入っていないらしい。味に保証はできないが。
「まさに夏バテ対策かき氷と言うわけですね!それでは、軍主による試食です!」


「さて、今度はトゥーリバー作です!色としてはイチゴ味のような鮮やかな赤。しかし、何かが違う!思いきって聞いてみましょう、将軍?」
 見た目は非常に美味しそうだ。真っ白な氷と赤いシロップのコントラスト。だが、これはかのコボルトが自信をもって送り出してきた代物である。
 だまされてはいけない。
「うむ、このシロップは」
 リドリー将軍、咳払いをひとつ。
「我らが愛する『赤アイス』を応用して考え出したものだ」
 それは。
 つまり。
 アイスに加えたあの調味料を。
 解答を聞きたくなくて、フータンチェンが突っ走った。
「さあ!はりきって試食してください!」


「うーん、軍主が後ろでうずくまっておりますが、氷は待ってくれません。さくさく行きます、グリンヒル作! 綺麗な緑ですね!やはり名前にちなんだのでしょうか?」
 マイクがテレーズに向けられる。おっとりとお嬢様市長は微笑んだ。
「ええ、それに、これはグリンヒル周辺でよくとれるんです。昨日、ニナがブックベルトを両手に頑張ってくれて……」
 よく、とれる?
 地理と産業に詳しい者の頭に疑問符が飛び交った。グリンヒルは学園都市だ。森の村まで行けば多少の野菜は栽培しているが、果物はとれない。
 ということは、あの緑の液体はなんだ?
 そして、ニナが頑張ったとはどういうことだ?
「たくさんのひいらぎ小僧と戦って、人数分の『青汁』を用意してくれたんですよ」
 青汁は回復効果とともに軽度の毒を持つ。テレーズはそれを知っているのだろうか。いや、いないだろう。
 彼女の後ろでニナが小さく手を合わせている。
「それでは、軍主による試食ターイム!!」
 合掌。


「続いてマチルダ騎士団作!おおっと、これはすごい!赤、青、白の騎士団をイメージした力作です!!」
 これには会場からもどよめきがあがった。鮮やかな赤いシロップは今度こそイチゴ味だ。青はおそらくシロップ『ブルーハルモニア』である。 そこに白いアイスが添えられている。
 トンデモ味が連続したために、これは救いとなるはずだ。よろよろと軍主はスプーンを構えた。
 司会者が形式を整えるためにか、尋ねた。
「このアイスは何味ですか?バニラですか?それともヨーグルトかなにかを?」
 青騎士が真面目な顔で答えた。
「いや、俺もよくは知らないのだ」
 おい。
「アイスを準備していたときに、ナナミさんからいただいた……」
 がしゃん。軍主がスプーンを取り落とす。
 いくら、いくら自分に耐性があるからといって。
 よりにもよって、ナナミアイス!!
 フータンチェンもちょっとだけ同情の表情を浮かべた。
「試食、スタートォ!!」


「さてさて、最後になりました、トラン作!これは一風変わった赤いシロップですね。非常に淡い色をしていますが、正体はなんでしょう!」
「バラ」
 肩をすくめながらシーナが答えた。インパクト勝負に出るつもりでいたが、それどころではなく。
 もうなんだか投げやりになってしまった。
「グレッグミンスターのミルイヒの屋敷のバラ。サスケに頼んで忍び込んで、採ってきてもらって、シロップで煮てみたんだよ」
 英雄の機嫌を損ねない程度の冒険はこれが精一杯であった。 最初はロッカクの里の特産品であるショウユを氷にかけようかと思ったのだが、それだとあとで自分が殺される。
 どこかで感極まった泣き声が聞こえた。ナルシーであろうか。
 いや、それだけではない。見れば、なんと軍主が涙ぐんでいる。
「ありがとうございます。これこそ僕の望んでいた料理勝負です」
 今までのがよほどの味だったのだろう。
「最後の試食です、スタート!」




 優勝チーム……トゥーリバー
 料理名…………レッドペッパーかき氷
 理由……………暑い夏に相応しい作品です。全員、『絶対に』味わってください。


 優勝作品を会場に配りながら、軍主は無敵のリーダースマイルを放つ。
「暑さに打ち勝つのは熱さです。ほら、あなたも同盟軍兵士でしょう……?」




* * *
季節ネタ。ありがち料理対決。誰に謝ればいいのか私にはわかりません。
RAGIと話していて形になりました。
あまりにもバカな裏設定→
青いシロップ『ブルーハルモニア』は『ブルーハワイ』から。最初はハルモニアからの高級輸入品で、商品名『ブルーササライ』でした。親ばか神官長命名。
うちの神官長はいい人で、親ばかです。




幻想水滸伝目次
前編
総合目次