一撃目でアッシュの剣が折れ、次の一撃でシンクのグローブにヒビが入った。
あまりの脆さに瞠目するも、我に返った二人はある意味の禁じ手――超振動とダアト式譜術をイオのエクスプロードの爆発に併せて炸裂させた。
的となった魔物は一部は吹き飛び、一部は文字通り消し飛んだ。残った部分だけでは体を支えることはおろか、生命を維持することもできない。
どう、と横に倒れる。
一般兵だけでは手に負えず、師団長と副官をバチカル近郊まで引っ張り出したのはヘビモスだった。イニスタ湿原に生息している彼らは、そこで繁殖もしている。そして、湿原に囲い込む方法が植物である以上、完璧な状態は簡単に崩れてしまう。ほころびがあれば、狭い場所から溢れようとするのは自然なことだった。

「一度、ダアトに戻るしかないな」

折れた剣を放り出して、アッシュが隊を振り返った。
幸いにして死者は出ていない。戦闘不能に陥った団員のために回復呪文を唱えた。
効果は確認するまでもない。

「帰還する。準備が整い次第、小隊ごとに俺に連絡しろ」
「了解であります」

次々に上がる返事にアッシュは背を向けた。
どこへ行くという当てはなかったが、報告を受け取る身である以上は目立つ場所にいた方がいい。少し離れた場所にあった、巨木の下にいようと歩き出した。
その後をイオとシンクが追った。

「てめえら、監督くらいしたらどうだ?」
「その程度のことで副官使わないでよ」
「そのくらいのこと、各小隊長どので十分ですよ」

アッシュの言葉に、ふたりの言葉は綺麗に重なる。単語は違えど、内容はほとんど変わらなかった。

「それにしても。どうにかならないかな、これ」

ヒビの入ったグローブを目の前にかざして、シンクがぼやいた。
実際のところ、戦闘中に武器が壊れるのはこれが初めてではない。新調しても新調しても、すぐに壊れてしまうのだ。

「とんだ根性なしだな」

同調したアッシュに至っては、折れた剣を地面に投げ捨てた。武器に根性なしはないだろうと副官たちは思ったが、アッシュ相手では突っ込み甲斐がないので無駄な労力は払わない。

「前のときはどうだったんですか?」

ふと思いついて、イオが尋ねた。彼は譜術使いで、その場合、術の媒介となるのは自分の体だ。ローレライの剣という特殊な立場を得て、導師イオンとして生きていた昔とはまったく異なり、それこそダアト式譜術を使おうと倒れることなど皆無になった。
そして、アッシュもシンクも昔とは違う。違うが、戦闘能力が飛躍的に増したことはない。少なくとも、人目のある任務中では。
となれば、六神将であったときはどうだったのか、が気になるところだ。
そんなにしょっちゅう、武器を破壊していたのだろうか。
素朴な疑問。
足を止めたアッシュとシンクが顔を見合わせた。

「なかったな」
「なかったよ」

支給された武器を使っていたが、それが任務中に壊れたなんて、そんなふざけた経験はない。

「立場が違うからといって支給される武器が変わるとは思えん。俺はあんときと変わりねえ……はずだ」

投げ捨ててしまったものを探すまでもない。アッシュの特務師団長時代の階級は響士。今は詠師。どちらの武器も同じだ。
が、自分の言葉に彼は何か思い当たったようだ。

「おい、シンク」
「なに」
「あのとき、おまえ、誰から武器をもらってた。支給元じゃねえ。直接に、だ」
「そりゃ、……あ」

言い切る前に、少年も気がつく。
見合わせた顔のまま、深く溜め息をついた。
六神将の武器も教団から支給される。例外はない。しかし、最初から最後まで同じ物であるは限らない。経由する人間の手で、劇的に変貌している可能性もあるわけだ。

「次からは導師経由で奴を強請るしかねえな」
「脅迫なんてしなくても、あいつなら喜んで改造してくれそうだけど」

自らのものだけでなく、六神将全員の武器を改造しまくっていた研究者。

「導師経由の方が命の保証がある。探究心で殺されるわけにはいかない」

利害関係がなくなった今だと、おもしろ半分で自爆装置でも仕掛けられかねない。

「そりゃそうだ」

あの当時でさえ、よくわからない機能・無駄な機能に振り回されたのだ。導師が自分のレプリカ製作をネタに取り引きすれば、あの男は言うことを聞くだろう。

「あの不良導師の得意分野だ。本領発揮してもらおうじゃねえか」

死神ディスト。
彼に求められている能力は、意外な場所にあったりした。





本編中、アッシュの装備見て思ったこと。
……支給品ですか??
あの秘奥技(どうみても超振動)で、一緒に砕け散ってしまわないのはなぜ??
という疑問を無理矢理解決。
ディスト、おもしろ半分に改造してくれそうですが。



<2007/7/4>






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