「あたし、初めて見ましたよお、カンタビレ様!」
「私もだわ、案外お若いのね……ルークと同じくらいじゃないかしら」

完全に背中が去ったのを見計らって、アニスとティアが口を開いた。

「あれ?二人ともダアトにいたのに会ったことがないのか?」
「だって、カンタビレ様だよ、カンタビレ様!つちのこみたいなものだよ!」

意外そうなルークにジェイドが補足した。

「もともと、カンタビレは導師派であるために常に地方左遷で滅多にダアトに顔を出さないんですよ。それに彼については色々と噂もありますからね」
「そうね。もしかすると、今の人も本物じゃないのかも……」
「偽物ということはないと思いますよ。少なくとも、『カンタビレ』の一人でしょう」

まだ首を傾げているルークだったが、よくよく考えた顔で確認する。

「もしかして、カンタビレってやつは一人じゃないのか?」
「第六師団を正式に預かっているカンタビレは一人でしょうね。ただし、カンタビレを名乗っている人間は数人いるようですが……」

なかなかガードが固くてマルクトでも正確な情報はつかめていませんよ。
やれやれと肩をすくめるジェイドに、アニスがぽつりと呟いた。

「そういえば、カンタビレ様、イオン様の従兄弟だって聞いたことがあるよ……」
「そっか……」

どこかきつめの顔立ちであったが、確かにイオンと面差しが似ていた。
本当にあの少年がイオンの従兄弟であるかは分からないけれど、そうだとすればどこまで知っているのだろう。
オリジナルの導師イオンがとうに亡くなっていることは?
ついこのあいだ死んでしまったイオンがレプリカだったことは?
ルークが知っているイオンは、家族のことを話したことはなかった。
彼は、自分の……オリジナルの家族についてどう考えていたんだろう。

「それにしても失敗したかもしれませんねえ」

ふと黙り込んだルークを掬い上げるタイミングでジェイドがぼやく。

「カンタビレは実力は主席総長に匹敵するといいますし、師団の規模も最大。導師派ということでモースとも対立しているでしょうし……」
「協力していただくようお願いすれば良かったということですか?」

ふたりの台詞に、残りのメンバーが一斉にルークを見つめた。
ああ、なんて居心地が悪い。

「ごめん、気が利かなくってさ」


それでも、先ほどまでの思考の渦に陥るより心地よいと思う自分をゆるしてください。





因果話の補足。シンクが去った後のルークたち。暗いなあ。
基本的にはカンタビレとルーク一行が接触したのはこれ一回、にしておきたい。
大詠師派と導師派の対立があって、主人公が大詠師側と敵対しているのにも関わらず導師派のカンタビレの協力を仰がなかった本編にちょっと納得がいっていません。
が、もしカンタビレが登場してたら妄想できなかったのも事実。
<2007/1/9>






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