「カンタビレ様って一体どんな方なんだ?」
第六師団に配属になったものの、何故か未だに団長への目通りが叶わないA氏の質問。


*X氏の証言。

ある日、頼まれた書類を執務室まで届けに行ったんだ。
いらっしゃったのは焔のような金の髪の方さ。
俺が書類を差し出すのを受け取るなり、すごい勢いで目を通すと数カ所その場で訂正して処理印を押していらっしゃったんだが……。
後で見直したらその直した箇所が……、直し方が……、直した早さが……。
しかもそこまでしておいて、俺には一言だけ。

「ああ、行っていいぞ」

もっと何か文句でも厭味でも言ってくださった方がよっぽどマシだったかもしれない。
とにかくあれは人間業じゃねえ……。
噂では譜術や体術はともかく、剣技はあの主席総長と互角だとか。
まったく、なんであれで今の待遇に甘んじているのかが謎だ……。
いや、とにかくすごい方なんだよ、カンタビレ様は。


*Y氏の証言。

ある日、頼まれた書類を執務室まで届けに行ったんだ。
いらっしゃったのは緑の髪を長く伸ばした方さ。
俺が書類を差し出すのを受け取るなり、すごい勢いで目を通して……。
突っ返しやがった!

「三ページ目の五行目と、四ページ目の第三段落の試算、それから最後のページの予算。間違ってるから直してきて」

あの早さで、どうして分かるんだっていう話だよ。
……いや、あとで見直したら本当にそこが間違ってたんだよ。
おまけに俺が呆然としてると、

「あんた、耳ついてる?さっさと直せっていってるんだけど?」

とにかくあの空気。
魔王の空気って言うの?
とにかく人間業じゃねえよ。
噂では譜術や剣術はともかく、体術では右に出るものはいないとか。
まったく、なんであれで今の待遇に甘んじているのかが謎だよ……。
いや、とにかくすごい方なんだよ、カンタビレ様は。


*Z氏の証言。

ある日、頼まれた書類を執務室まで届けに行ったんだ。
いらっしゃったのは緑の髪の穏やかな顔をされた方さ。
俺が書類を差し出すのを受け取るなり、すごい勢いで目を通して……。
にっこりと笑いながらこうおっしゃったんだ。

「いくつかミスがあるようですが、『今回は』『特別に』受け取りましょう。僕の方で直しておきますよ」

あの瞬間と言ったら……!!
もうどう表現すれば良いかわからないね。
いっそ怒られた方がマシだと思ったね。
全てを見透かす笑顔って言うのはあれなんだろうよ。
とにかく、ただの人間じゃねえ……。
噂では剣術や体術はともかく、譜術ではエキスパート。
ダアト式譜術も使えるとか言うありえない噂まであるくらいだ。
まったく、なんであれで今の待遇に甘んじているのかが謎だよ……。
いや、とにかくすごい方なんだよ、カンタビレ様は。


***


「楽しい噂が流れているみたいですねえ」
「笑い事じゃねえ、導師」

いつも通りの暢気な茶会。
いつも通りにアッシュが眉間に縦じわを刻んでいる。
ちなみに、シンクとイオはセットで地方へ飛んでいる。
「仕方がないじゃないですか。事実、あなたたち三人とも『カンタビレ』なんですから」
建前上、団長はアッシュで、シンクとイオは副団長であるが、実際は全員が等しく第六師団長としての権限を持つ。
八千人からなる大所帯を円滑に動かすため、そして彼ら三人にとって「正体不明のカンタビレ」をなぞるための策でもあった。

「狙いは当たっているでしょう?」
「……」

にこやかな導師にアッシュは手つきだけは優雅に、無言で茶を飲み干した。




こうして日々カンタビレは正体不明というよりも支離滅裂になっていくのでした。
つか、イオが黒い。




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