「おまえら、どうしてこの部屋に集まる」

不機嫌に告げた青年に、導師イオンはのほほんと答えた。


「だって楽なんですよね。ここ」
「そのせいでこっちは迷惑してるんだよ。アンタが入り浸るから、いつの間にやら『導師派』にされて、『大詠師派』以外が全部放り込まれてくるし!」
「シンク、眉間の皺がアッシュそっくりですよ」
「イオは黙る!」


文句を言いながらも、律儀に人数分の茶を配っていたシンクはイオ……七番目のレプリカイオン……に向かってヒステリックな声をあげた。

「だいたい、僕の名前もそうだけど、イオとイオンじゃ紛らわしいだろ?!ただでさえ、僕等は表向き、従兄弟なんだし!」
「下手にもとの名前と違う名前だと呼ばれたときに反応できないかもしれないじゃないですか。それに見た目が明らかに違うし大丈夫ですよ」

 余裕を持ってイオが答える。生前は……という表現もおかしなものだが、以前のおっとりとおとなしい態度からは想像もできないほどにたくましくなっていた。あくまでも中身が、であるが。

「数年したら同じ顔になるんだから、怪しむやつが出てくるんじゃないかって言いたいんだよ」
「別にめずらしい名前でもねえし、心配するほどでもねえだろ」
「ほら、アッシュもそう言っていることですし」

 横から口をはさんできた人物を今度は睨みつける。

「あんたはいいよね、アッシュ?見た目もだいぶ変わったし、通称のそれのほうがおかしくないし」
「……うらやましいなら、俺と同じような女の名前をつけてやるぞ」

 中途半端に過去に飛ばされてしまった為に流石にファブレの姓も『アッシュ』とも名乗れなくなった彼に導師イオンが嬉々として名付けたのは、預言その他諸々をミックスした『ローラ・アシュレイ・カンタビレ』という本人にとってあまり嬉しくないものだった。
 さんざん正体不明で通ってきたあの人物。
 真実を知れば、脱力感。

「遠慮しておくよ」

 言い捨てて、シンクは物事の発端となった人物を、彼のオリジナルに視線を向けた。
 彼らのやりとりを楽しそうに眺める、この場でもっとも幼く高貴な人物。

「……楽しそうだね」
「ええ、それはもう」

 すでに病にたしかに蝕まれている筈なのに、そんなことを微塵も感じさせない確固たる雰囲気。
 かつてはその影として生み出されて、嫌悪して憎悪した対象。でも今は、この幼い少年がオリジナルで良かったと思えるから不思議だ。オリジナルを見つめていたレプリカルークの眼差しを少しだけ理解できる気がする。

「あなたたちのおかげで、僕は預言を曲げる決意をすることができた。それが間違っていることなんじゃないかという迷いを棄てられたんです」

 この空間を本当にかけがえのないものだと思ったから。
 失いたくなかったから。

「イオン」

 そんな少年を見て、アッシュが声をかける。

「今の俺なら……」
「必要ありません」

 しかし、最後まで言わせることはない。

「モースは知ってしまっています。僕が死ぬ預言を。病が僕を殺さなくとも、彼が僕を殺すでしょう。それで終わりになるくらいだったら」


「僕はあなたたちを残します」


 預言に読まれていない、彼のレプリカたちを。




俺設定が凄まじ過ぎですが、基本設定はこんな感じで行きます。






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