それが僕らの生きる道



 デュナン湖に佇む同盟軍本拠地。
 そこには国を守るために戦う勇士たちが揃っていた。





「今日のお昼何食べるサスケ?」
「そうだなー、今日は日替わりランチにしよっかな。フッチは?」
「僕は焼肉定食にするよ。ブライト、お肉わけてあげるからね。」
「きゅー。」





 …その勇士(?)の一員であるロッカクの里の忍者少年とトラン竜洞騎士団元見習いの少年が和気藹々とレストランに向かっていた。
 その通り道、ホールの石版の前に佇む魔法使いを誘うことも忘れない。
「ルックー!ご飯食べにいこー!!」
「……わかったから大声で叫ぶな……」
 頭を抱えながらこまっしゃくれ魔法使いは唸った。
 かくして3人はいつものようにレストランへとお昼ご飯調達に向かった。
 昼ともあってやはり人が多い。
 しかし。
「ルックさん!!」
「さあ、どうぞお先に!!」
「る、ルック団長!!」
「ルック様ー!!」
 へたすりゃ軍主も真っ青な人気でルックは行列を通りぬけるのである。
「…悪いね。」
 並ぶのなんかだいっ嫌いなルックなので、薦められるままに先頭へと踊り出るのだった。
 その後ろにちゃっかりとついていくのがサスケとフッチの常である。
「いらっしゃいよー!何食べるよー?」
 いつもの口調でハイヨーが注文を尋ねる。
 ルックはしばし壁に貼られたメニューを見つめて思案顔をしたのち、
「……きつねうどん。」
「了解よー!」
「お前って和食好きな。」
「洋食の方が似合いそうだけどね。
あ、僕焼肉定食大盛り〜」
「俺は日替わりランチー!」
「はいよー、まっててよー!」
 慌しく3人は注文をすませると空いてる席を探して腰を下ろした。





「あー、うまかった。」
「うん、もうお腹一杯。」
「きゅ。」
 2人ぷらす一匹が満足げに呟く。
 その向かいで緑茶を静かに啜るルック。
 どこまでも回りの視線を無視する。
「さーて、じゃデザートにすっか。」
「何にしようかなー。」
「………お腹一杯なんじゃなかったのか。」
 ご機嫌にメニューを手に取った二人に呆れた様にルックが言った。
「「デザートは別腹。」」
 2人して同じ言葉でかえし、聞く耳もたない。
 甘味物を苦手とするルックにはよく女の子たちが口にするこの文句が全くもって理解できなかった。
 なんでもまずいに部類されているルックにもそれなりに嗜好というものもある。
 そんなルックを気にせずに2人は近くのウェイトレスに声をかけた。
「すいません、ショートケーキ追加お願いします。」
「俺はアップルパイ!」
 元気良く注文する2人の少年に、ウェイトレスの女性はわずかに表情を暗くした。
「申し訳ございません…実は今、デザート類は何も置いてないんです。」
 気まずそうに返された言葉に、しばし少年ふたりは思考を停止させ。
 次の瞬間。



「「何―――――――!!!?」」



 城中に響き渡る音量でもって叫んだ。
 その直後ハリセンの音が炸裂したことも追記しておこう。










「実は、砂糖がないのよー。」
 しょんぼりとハイヨーは詰め寄ってきた少年ふたりに語った。
 何故デザート類が作れないのか?
 実は度々軍主が交易で手に入れてくる砂糖が底をついたからなのであった。
 砂糖はサトウキビから取って作っている。
 よってサトウキビがとれなくなる時期は当然砂糖もとれなくなる。
 量も少なくなるわけだから物価もあがるし、滅多に店にも運ばれないのであった。
 北国のほうでとれるテンサイからとることも可能なのだがこちらも遠方から運んでくるぶん高い。
 よって今の時期砂糖を手に入れるのは少々困難なのである。
「そんな………俺のベリータルト、アイスクリーム、プリン……」
「シフォンケーキ、あんみつ、クレープ、チーズケーキ……」
 がくりと肩を落としてサスケとフッチは呟いた。
 その後ろに腕を組んで立っているルックはわずかに青筋をたてながらぼやく。
「理由はわかったし、どうしようもないだろ!しばらくまてば少しは入荷できるだろ。
 それまで待つくらいできないでどうする!」
「「だって、ルック!!」」
 涙目で抗議しようとした2人の頭にルックは素晴らしい手首のひねりでもってハリセンを食らわせる。
 ハイヨーがちょっと気の毒そうな顔をした。
「あんたたち、何甘えたこといってんの!?
初期の解放戦争の時なんか料理は配給制でご飯とお味噌汁と沢庵ひときれだったんだよ!?それも昼と夜の2食だかんね!?」
「「えええええええええっ!!??」」
 そんなにつらかったんか、トラン解放戦争。
 フッチは自分が加わったのが終戦間近で良かった、と思った。
 しかし、ご飯とお味噌汁と沢庵一切れを食べる解放軍の面々を想像してみて、フッチはなんとも言えない気持ちになった。
「さあ、これで自分たちが甘ったれたこと言ってるってわかっただろう。
わかったらこの機会にピーマンとにんじんを克服するんだね。」
「ぴ、ピーマンはともかく…ルック、そんなにひもじかったんだね、解放軍って。」
「2食だけって、お前たりてたのかよ?」
 別にルックは大食いじゃない。
 どちらかと言えば少食だ。
 けれど三食はきちんと取っている。
 それはルックが自分の体力不足を良く理解しており、いざと言う時に体を満遍なく動かせるように体調管理をしっかりさせているからだ。
「平気だよ、僕は魔術師の塔に戻って自分で作って食べてたから。」
「「おいっ!!!」」
「いーじゃない、経費削減。
僕の分が他の皆に回ったんだから。」
 さらっと述べられた内容にサスケとフッチはつっこんだ。
 さらっと流されたが。
「それに、食料だって僕が自分で手配して、師匠のぶんと一緒に作ったんだから。
自分で手に入れて、自分で調理してる。
あんたたちはそのどちらもせずに不満ばかり漏らしてる。」
「う……」
 確かにルックの言葉は正論だった。
 そしてフッチとサスケはどちらからということもなくお互いに顔を見合わせ、頷き合った。
「わかったよルック、俺達が間違ってた。」
「そう、ならもうい……」
「僕達、自分の力で砂糖を手に入れてくるよ。」
「…………へ?」
 ようやっと諦めてくれたかと安堵した魔法兵団長は、すぐさま続けられた予期せぬ言葉にマヌケな声を発した。
 少年たちは無駄に輝いた瞳をしていた。
 もうやる気満万である。
 いや、ちょっと待てよ。
「よし、行こうフッチ!」
「うん、ブライトはハンフリーさんと一緒にお留守番よろしくね!」
「きゅ!!」
 こうして、少年たちは呆然とする魔法兵団長と忘れ去られたハイヨーを残して砂糖求めて旅だったのである。
 ことごとく戦争中だということを忘れている少年たちであった。










 旅だった2人はまずモンスターを倒して資金集めをしていた。
 2人だけとなると戦闘もそれなりにきつい。
 無理をするわけにもいかないので見合った敵を倒す。
 ゲームの常でそこまで強くない敵だとお金もあまり落とさない。
 それに考え無しに飛び出してきたが宿代も結構するから野宿続きだし、食事だって携帯食ばかり。
 思った以上に楽ではない道のりであった。
「…腹へったー…」
「言わないでよ、余計にへるから…」
 ぺたんと木の根元にふたり座り込んでぼやく。
 空はあんなに青くて、太陽はあんなに輝いているのに。
 今ごろ城の皆は昼ご飯を食べているだろう。
 ルックは一人でもちゃんと食事をとってるだろうか。
 ……普通に食べてるだろう、いつものように道を空けられながら。
 嗚呼、楽しげに囀る鳥の声も恨めしい。
「…こんなことしてて、金たまるか?」
「………どうするのさ?」
 視線を合わせないまま二人はつぶやく。
「………ようするに、これを元に金を増やせばいいんだ。」
 サスケは手元にたまった大量の小銭をじゃらりと鳴らして言った。










「わりぃな坊主ども。2のゾロ目で3倍もらいだ。」
 にやり、と人の悪い顔で笑って、シロウが言った。
 ぼとり、とサスケの手のサイコロが落ちる。
 その後ろ、肩を震えさせてフッチが叫んだ。
「サスケー――――!!!」
「お、お前だって反対しなかったじゃんか!!」
 サスケは冷や汗を流しながら返した。
 彼らはそのままぎゃーぎゃーと言い争うが、所詮後の祭。
 というよりかは自業自得というものである。
「がははははは!!もうちっと年くってから出直してきなガキンチョども!!」
 賭博場に笑い声が響いた。












 図書室の奥の一室。
 ことん、と小さな物音にテンプルトンは今まで読んでいた書物から視線をあげた。
 向かいに座ったのは、やはり彼の親友たるルックだった。
 机に置かれたのは棒つきの飴である。
 それを見て、テンプルトンは嘆息した。
「なに、まだ帰ってこないのあいつら?」
「…馬鹿だから。」
「わかってるなら、最初からこうしてればよかったのに。」
 そういってテンプルトンは皿の上に置かれた飴に手を伸ばした。
 テンプルトンは甘いものが特別好きなわけじゃなかったが、嫌いなわけでもなかった。
 飴は、僅かに甘味を持った樹液を溶かして固めたものである。
 別に砂糖がなくても、作れるお菓子がないわけじゃない。
 やれやれとテンプルトンは心の中で呟いた。
 いい加減諦めて帰ってくればいいのだ、と。
 砂糖求めて旅だった二人が、まさか賭博場にいるとは思いもよらない二人の、内緒の一時である。



***
『空巣』サイトマスター梶さまから、14000hit取得記念でいただいたキリリク作品です。
『お菓子をめぐる美少年ズの攻防』というわけのわからないお題にもかかわらず、こんなに素敵な作品をいただけて感激です。
この方の書かれる三人組はなぜか食べ物とのつながりが深いような気がしまして、つい。
本当にありがとうございました。








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